あっぷるランド

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リンゴ余聞  フジ と ムツ

岩手県盛岡園芸試験場長だったリンゴ博士の森  英男氏は、食味がデリシャスに勝り、しかも貯蔵力は国光に勝る新品種のリンゴ作出の品種改良にとりかかりました。

森さんは、国光(母)×デリシャス(父)の実生596個の中から、選りすぐった一本をえらんで、これに「東北七号」という名をつけました。時は昭和33年。

「東北七号」の外観は、母親の国光にそっくりそのままで、風味はデリシャスに勝るデリシャス(まさにおいしい)。
しかも完熟させると果肉の中には「蜜」がいっぱいたまる。まさに傑作中の傑作ともいえる新リンゴの誕生でした。

森さんはいつこのリンゴを市場に登場させようかと、じっとチャンスを待っていました。
昭和37年(1962)ロンドンにおいて、世界リンゴ品評会が行なわれることになりました。絶好のチャンスの到来です。
日本からも各種のリンゴを出品しましたが、その中に「東北七号」を加えることを決意し、日本の霊峰富士山にちなんで「FUJI」の名で出品しました。

世界のリンゴ品評会には数百品種が各国から出品されましたが、姿態、味覚、生産性、経済性などの諸点で審査され、その結果、「FUJI」はみごとにグランプリを獲得しました。

以来、フジは声価を高め、今では日本の全リンゴの中でも一番の人気があり、それ以降ずっとリンゴの王座に君臨し続けています。
森さんは55年4月に亡くなられたが、名果フジの生命は永遠なのです。

もうひとつの日本の名果は、ムツリンゴでしょう。
ムツはゴールデンデリシャス(母)×インド(父)の品種交配で生まれました。ムツと命名されたのは昭和24年(1949)。

市場に出てくるムツは、紅色に黄色がまだらに入った美しい果皮、リンゴの中では最も美しい色とされています。
しかし、この美しい色は、二重になった袋を果実にかけて栽培することによって出来ているのです。この袋をかけずに栽培されたムツは緑色をしています。
したがって、ムツのもとの色は緑で、袋かけをし収穫前に樹上にならせたままそれをはがしたものが、紅色となるのです。

さて、イギリスで栽培されている日本のムツリンゴは、ムツ本来の緑色、しかも無袋栽培のため、果肉は固くしまって噛めばパシッと割れます。
イギリス人は天衣無縫の緑色と固い肉質を好み、名前を「クリスピン(Crispin)」と付けました。クリスピンとは“パリパリ”という意味です。

まさに東西、色好み、味好みの差が、片やムツ、片やクリスピンということになっているんですね。


   


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